物流データの欠損値を扱う方法|推計前に残すべき根拠と再取得の優先順位

物流データを集計するとき、到着時刻や貨物重量などが欠けていると、「ゼロを入力する」「ほかの便の平均値で埋める」といった処理を考えがちです。

しかし、記録がないことと、実際の値がゼロであることは異なります。空欄を埋める方法によっては、荷待ち時間を実態より短く見せたり、拠点間の比較を誤らせたりする可能性があります。

欠損への対応は、まず理由と影響範囲を確認し、元の記録から再取得できるかを調べることから始めます。そのうえで、推計が必要な場合に、利用目的に合った方法と根拠を整理します。

この記事では、報告担当者・データ担当者に向けて、物流データの欠損を扱う手順を解説します。以下の台帳や確認手順は、社内管理のための提案です。

1.欠損・ゼロ・対象外を分ける

最初に決めるのは、空欄にどの数字を入れるかではなく、その空欄が何を意味するかです。

データの状態物流データでの例扱い方
確認済みのゼロ定義に沿って確認した結果、荷待ち時間が0分だった根拠を残して0と記録する
未取得・未記録到着時刻の記録が見つからない欠損として再取得を検討する
対象外取消済みの便で、実際には運行していない集計対象のルールに従って区別する
未確定運送事業者から確定データが届いていない確定予定日と担当者を記録する
要確認終了時刻が開始時刻より前になっている元の値を残し、日付・入力・連携処理を確認する

空欄、ゼロ、対象外を同じ値に置き換えると、後から状態を判別しにくくなります。数値とは別に、「取得済み」「未取得」「対象外」「推計」などの状態を持たせると管理しやすくなります。

また、項目の空欄だけでなく、便や出荷の記録自体が取り込まれていない場合もあります。配車一覧や出荷一覧と突き合わせ、集計対象の記録がそろっているかを確認しましょう。

2.法定報告に使うデータか、社内分析に使うデータかを確認する

欠損への対応方法は、データの利用目的によって判断します。

物流効率化法の定期報告では、特定荷主等が荷待ち時間等の状況を報告します。公式案内には、計測方法や、一定の条件によるサンプリングなどの取扱いが示されています。社内で便利な補完方法を、そのまま制度上も使えると判断しないことが大切です。国土交通省「定期報告」

制度に沿って対象を選ぶサンプリングと、測定する予定だった記録が欠けることは区別してください。欠損した便を後から除くだけで、適切なサンプリングになるとは限りません。

一方、省エネ法に関する資料には、輸送量やエネルギー使用量について、条件に応じた推計方法が示されています。これは、その制度と算定項目に関する説明です。荷待ち時間など、別の項目の補完を認める根拠として、そのまま転用することはできません。資源エネルギー庁「輸送の省エネ法規制・よくある質問」

法定報告に使う場合は、対象年度の様式、記載要領、公式Q&Aで該当項目の扱いを確認します。確認できない場合は、欠損の内容と対応案を整理して所管省庁へ照会してください。

3.推計する前に、元の記録を探す

欠損が見つかったら、まず記録が本当に存在しないのかを調べます。

例えば、倉庫システムに到着時刻がなくても、受付端末や運送事業者の記録に残っている場合があります。貨物重量が空欄でも、確定した出荷数量と適用時点の商品重量マスタから算出できる場合があります。

再取得では、次の順に確認すると整理しやすくなります。

  1. 抽出・連携処理を確認する
    元システムには値があるのに、抽出条件や結合キーの不一致で落ちていないかを調べます。
  2. 当時の原票や別システムを確認する
    受付記録、配車記録、出荷明細、作業日報などを、便番号・日付・施設コードで照合します。
  3. 記録を保有する担当者や取引先へ確認する
    対象と必要項目を限定し、提供可能な形式や期限を相談します。
  4. 根拠のある計算で求められるかを確認する
    計算に必要な値と定義がそろう場合は、使用した原票、マスタ、計算式を残します。

ただし、名称が似ている項目でも、意味が同じとは限りません。予約時刻を実際の到着時刻として扱ったり、受付時刻を無条件に到着時刻へ置き換えたりしないようにします。

荷待ち時間の算定では、到着時刻・時間帯の指示の有無などによって起点が異なります。再取得した時刻が、その算定に使える記録なのかを確認してください。国土交通省「荷待ち時間と荷役等時間の算定方法」

4.再取得の優先順位は、件数だけで決めない

欠損が多い場合は、すべてを同時に追うのではなく、結果への影響と再取得の可能性から優先順位を付けます。

優先して確認したい状況確認する理由
報告期限や重要な判断に関係する項目が欠けている対応の遅れが提出や意思決定に影響する
大きな物量や長距離輸送などの記録が欠けている少数でも集計結果への影響が大きい可能性がある
特定の時間帯・施設・取引先に欠損が集中している記録がある部分だけでは全体を代表しない可能性がある
保存期限が近い原票やログに手掛かりがある時間が経つと再取得できなくなる
抽出条件や連携処理の修正で回復できる同じ原因による欠損をまとめて解消できる

欠損の割合が小さくても、重要な記録に偏っていれば結果を大きく変えることがあります。カナダ統計局の品質指針でも、補完の割合だけでなく、結果への影響を評価する必要性が示されています。カナダ統計局「Statistics Canada Quality Guidelines:Imputation」

社内の管理表では、欠損件数に加え、施設別・時間帯別などの偏りも確認しましょう。

5.平均値による補完は、前提を確認して使う

平均値での補完は、欠けた値を実測したことにはなりません。

例えば、荷待ち時間の記録漏れが混雑時に集中している場合、比較的空いている時間帯の平均値を当てはめると、実態より短く見積もる可能性があります。

また、同じ平均値を繰り返し入れると、値が平均付近に集中し、ばらつきや他の項目との関係を変えてしまうことがあります。これは、統計上も指摘されている平均値補完の注意点です。カナダ統計局「3.4.4 Imputation」

社内分析で推計を検討する際は、少なくとも次を確認します。

  • 何を判断するための推計か
  • 欠損が発生した理由は何か
  • 参考にするデータと、施設・時間帯・荷姿・物量などの条件が近いか
  • 推計方法を変えると判断が変わらないか
  • 推計した項目と方法を後から識別できるか

根拠を説明できない場合は、無理に数値を埋めず、把握できた範囲と未把握の範囲を示す方法も検討します。ただし、法定報告での記載方法や提出可否は、制度上のルールに従って確認が必要です。

6.仮想例:100件中12件が欠けている場合

以下は、欠損の扱いによる違いを説明する仮想例です。実在企業の実績や、法定報告に必要な測定件数を示すものではありません。

ある施設で、社内分析の対象となる100件の受渡しについて荷待ち時間を確認しました。88件は把握でき、その合計は2,640分でした。残り12件は、算定に必要な時刻が不足しています。

この場合、把握できた88件の平均は次のとおりです。

2,640分 ÷ 88件 = 30分

一方、欠損した12件を根拠なく0分として100件で割ると、次の値になります。

2,640分 ÷ 100件 = 26.4分

この26.4分は、未把握の12件に荷待ちがなかったと仮定した値です。実際に確認した全100件の平均とはいえません。

12件を30分ずつで補えば、補完後の平均も30分になります。しかし、これは計算上そうなるだけで、欠損した12件の実態が30分だったことを示しません。

再取得前の社内資料では、例えば次のように表示します。

荷待ち時間の把握分平均:30分
集計対象:100件、把握済み:88件、未把握:12件
未把握の12件は再取得中。全100件の平均は未確定。

このように、平均値と把握状況をセットで示すと、数値の意味を共有しやすくなります。

7.データ品質ログに、判断の根拠を残す

欠損への対応は、担当者の記憶やメールだけに残さず、共通の管理表に記録します。

記録項目残す内容
対象の識別情報対象期間、施設、便・受渡し・出荷の識別番号
欠けている項目到着時刻、重量、距離など
状態と原因未取得、未記録、連携不具合、確認中など
再取得の状況確認先、依頼日、回答期限、確認結果
採用した処理再取得、根拠に基づく算出、推計、未解決など
計算・推計の根拠使用データ、条件、計算式、マスタの版、適用範囲
影響と確認者対象件数、影響する指標、確認者、確定日、修正履歴

元の値を上書きするだけの運用は避け、元データと処理後の値を対応付けます。

実績値と推計値は、同じファイルに保存しても構いません。大切なのは、どの値をどの方法で求めたかを識別でき、集計時にも区別できることです。

データ担当は欠損の検出と処理履歴を管理し、現場や運送事業者は記録の意味を確認します。報告担当は、採用する処理が提出先のルールと整合しているかを確認します。担当者が変わっても判断を再現できるよう、確認結果をログへ戻しましょう。

8.欠損を減らすために、発生原因まで見直す

再取得や推計が終わったら、欠損が生まれた原因を改善します。

例えば、受付時刻の入力漏れが特定の時間帯に集中しているなら、入力項目を増やすだけでなく、受付業務の分担や記録のタイミングを見直します。システム間の番号不一致が原因なら、入力担当者への注意喚起だけでなく、対応表や連携処理を修正します。

継続的な確認には、次のような指標が使えます。

  • 項目ごとの未把握件数と割合
  • 施設別・時間帯別の欠損の偏り
  • 再取得で解消できた件数
  • 未解決のまま残っている期間
  • 推計値を含む集計の範囲

割合を計算するときは、「その項目を取得すべき対象件数」を明確にします。対象外の記録を混ぜたり、欠損した記録を分母から外したりして、実態が見えなくならないようにしてください。

まずは一つの施設と一つの項目を選び、対象件数、欠損理由、再取得先を整理します。欠損を埋める作業と、欠損を減らす改善をつなげることが、説明できる物流データを作る第一歩です。

よくある質問

欠損をゼロに置き換えてはいけないのですか。

欠損という理由だけでゼロに置き換えるのは適切ではありません。確認の結果、定義上の値がゼロだった場合は、根拠を残してゼロと記録します。

欠損した行を除いて平均を出せば問題ありませんか。

把握できた記録の平均として計算することはできます。ただし、除いた記録に偏りがある場合、その平均が全体を代表するとは限りません。集計件数、欠損件数、対象範囲を併記してください。

推計値を含めれば、法定報告に使えますか。

推計したことだけで、提出可能になるわけではありません。報告する項目ごとに、現行の様式・記載要領・公式案内を確認します。社内で承認した方法でも、制度上の取扱いを確認する必要があります。


本記事は、2026年10月28日時点で確認した公式資料と統計資料に基づく一般的な実務解説です。個別の報告における欠損・推計の扱いは、対象制度の最新資料と所管省庁の案内を確認してください。

出典・参考資料

  1. 国土交通省「定期報告」
  2. 国土交通省「『荷待ち時間』と『荷役等時間』の算定方法について」
  3. 資源エネルギー庁「輸送の省エネ法規制・よくある質問」
  4. カナダ統計局「3.4.4 Imputation」
  5. カナダ統計局「Statistics Canada Quality Guidelines:Imputation」

閲覧日:2026年10月28日

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